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教授からのメッセージ
みなさんは皮膚科にどのようなイメージを持っているでしょうか?華やかなイメージ、泥臭いイメージ、科学的なイメージ、あるいはもしかしたら、複雑な病名の多い、捉えどころのないイメージを持っているかもしれません。また見た目だけで診断が行われる、伝統芸能的な、抽象的な学問というイメージを持っている方もいるかもしれません。
確かに、皮膚科は様々な面をもっています。また病名は独特のものが多いです。例えば「掌蹠膿疱症」「菌状息肉症」「Gibert薔薇色粃糠疹」「葡行性迂回状紅斑」など、読みにくい漢字や人名がついた病名がたくさんあります。これらは、目に見える皮膚症状を巧みに表現した病名であり、先人の鋭い観察眼により皮膚疾患は多数分類されてきました。ひと昔前の皮膚科は、このような記載皮膚科学をもとに発展し、治療が行われてきました。しかし、多くの皮膚疾患において病態が不明であるため、診断の多様性に比べ治療の多様性が比較的乏しく、また根拠も明らかでないものも多く、それらが皮膚科学に抽象的な印象を与えてしまっていたかもしれません。
しかし近年、皮膚疾患の病態は、分子レベルでの理解が急激にすすんでいます。例えば乾癬という慢性炎症性疾患は、TNFやIL-17、IL-23といったサイトカインで生じる疾患であることが明らかとなりました。アトピー性皮膚炎についても、IL-4、IL-13といったサイトカインが病態形成の中心的な役割を果たすことがわかってきました。そして、それらサイトカインをターゲットとした治療法はすでに臨床応用され、劇的な治療効果を示しています。このような治療と病態理解の進展が、多くの皮膚疾患で進んでいます。すなわち、現在の皮膚科学は、分子レベルでの病態理解と治療法が急激にすすんでいる、非常にホットな領域なのです。
皮膚は生体と外界を隔てるバリア臓器であり、常に外界からの刺激にさらされています。また重要な免疫臓器であり、多種多様な免疫細胞が存在しています。痛み・痒み・熱さ・寒さ等を感じる神経も豊富です。毛髪・体毛をもち、汗により体温調節を行います。肉眼で見える臓器だけに、加齢変化による影響も一目瞭然です。このような皮膚の空間的・物性的特性から、皮膚にはありとあらゆる生命現象が生じ、皮膚には炎症・免疫・アレルギー・がん・創傷・種々の付属器疾患・加齢変化・美容など、多種多様な疾患領域が存在します。このため皮膚科は、内科的要素、外科的要素、審美的要素などを持つことになります。これが、皮膚科の多様なイメージを生み出している一つの要因と思われます。
また、”皮膚は全身の鏡”と古くから言われるように、皮膚には内臓疾患が反映されることも多いです。
さらに皮膚は肉眼で見える数少ない臓器の一つです。そのため皮膚疾患患者さんは痒み、痛みなど、病気自体からくる肉体的な苦しみに加え、見た目による精神的な苦しみも受けています。その肉体的苦しみ・精神的苦しみと長い間付き合っていくことは、けっして軽視できるものではありません。
私たち皮膚科医は、患者さんの苦しみに寄り添いながら皮膚疾患の病態を明らかとし、治療法を開発し適切な治療を行うことで、患者さんを皮膚疾患の苦しみから救うために存在しています。また皮膚を通して内臓の変化を洞察し、内臓疾患の発見・治療への道標をつけることができます。ぜひ私たちと一緒に皮膚科学のプロフェッショナルとなり、やりがいのある皮膚科診療を行い、充実した皮膚科医人生を歩んでみませんか?